第3回 下水道の未来を切り拓く技術開発
厄介物も集めれば宝の山、下水中のりん ~水環境の改善と資源利用の一石二鳥を狙う~
今回は「りん」に関する技術開発について紹介します。下水に含まれる「りん」には2つの側面があります。
水環境の厄介物
1つ目は、水環境の汚濁物質として厄介物の側面です。東京湾のような内湾では、りん濃度が高まると、それを栄養源とするプランクトンが異常増殖し、海面が赤く染まる「赤潮」が発生します(写真-1)。赤潮が発生すると、水中の酸素が不足して魚介類の大量死をもたらすなど、水産業に被害を与えることがあります。下水を処理する水再生センターでは、できるだけ下水中のりんを除去してから処理水として放流しています。
写真-1 赤潮発生の様子
海外に依存する貴重な資源
2つ目は、資源としての側面です。りんは植物の三大栄養素の一つで、食物生産に必要な肥料の成分として欠かせません。しかし原料であるりん鉱石の産出国は一部の国に限られ(3か国で全体の66%、図-1)、過去には供給ひっ迫に伴う価格高騰がありました。世界有数のりん消費国でありながら、原料の全量を輸入に頼っている日本では、調達先の多様化が課題です。下水道には我が国の年間りん需要量の2割に相当するりんが流入します。下水処理の過程で除去したりんを取り出して肥料などに活用できれば、輸入に依存する状況を、資源循環のサイクルに転換することができます。最近では、下水汚泥に含まれるりんの肥料利用拡大に向け、農林水産省・国土交通省が検討を開始しています。
図-1りん鉱石産出量の国別割合
(2021年、農林水産省資料より)
新開発のりん回収技術
下水道局では民間企業と共同で、除去したりんを資源化する技術開発に取り組み、いくつもの技術を開発してきました。しかしながら、下水中の様々な成分の中からりんだけを取り出すので、どうしても複雑な工程が必要で費用がかかるという課題がありました。この課題に応えるために開発した技術が、「吸着剤を活用したりん回収技術」です。
この吸着剤はセメント原料を活用したもので、りんと結合しやすいカルシウムが主成分です。図-2 のとおり、下水処理の過程で吸着剤を混ぜて、沈殿したものを回収します。原理はシンプルなうえ、以下の優れた特徴を有しています。
図-2 吸着剤の働きと回収物(写真)
- 様々な成分が含まれる下水から、りんだけを吸着する
- 吸着剤に含まれているカルシウムも肥料として使われている成分なので、りん回収物をそのまま肥料の原料として使える
- 回収する施設の構造がシンプルで管理しやすい
- 吸着剤の原料はセメントと一緒で、国内で十分調達が可能
写真-2 作物の生育試験
写真-2 は小松菜ですが、このうち4 つはりん回収物を使った肥料で育てたものです。どれだかわかりますか?このように、今回ご紹介した技術は、厄介物を放流水から除去し、資源として利用するまさに一石二鳥の技術となっています。