第42回 鉄蓋大好き!

マンホール蓋から知る歴史

傭兵鉄子 TETSUKO YOHEI

歩いていると必ず目にするマンホール蓋。最近はアニメやご当地キャラクターのカラフルな蓋も増え、マンホールカードになっているものは特に人気です。都内にもそうした人気の蓋がありますが、実はカードになっていない蓋の中にも、魅力的なものはいくつもあります。

その一つが、江戸川区にある「弥生式土器」のデザインマンホール蓋です。この蓋があるのは、京成小岩駅から歩いて数分の上小岩親水緑道。周りは普通の住宅地です。なぜここに弥生式土器?と気になって調べてみると、この辺りは「上小岩遺跡」が見つかった場所でした。

上小岩遺跡は、弥生時代後期から近世にかけての土器などが出土した遺跡です。発掘のきっかけは、1952 (昭和27)年に地元の中学生が自宅裏の用水路で土器のかけらを見つけ、先生に伝えたことでした。その後も先生による調査が続けられ、1983 (昭和58)年から行われた発掘調査で、弥生時代から古墳、奈良・平安、中世、近世にわたる複合遺跡であることが分かりました。その発掘で住居跡は見つかりませんでしたが、2020 (令和2)年に始まった上小岩小学校の建て替えに伴う発掘調査で、6~8世紀の竪穴住居跡が発見され、古代の江戸川区に集落があったことが初めて裏付けられました。東京低地の最南端としても貴重な発見です。弥生式土器のデザインマンホール蓋は、この発見よりもかなり前に設置されました。調査はまだ続いているので、もしかしたら今後新しいデザインの蓋が追加されるかも!と期待もふくらみます。

上小岩親水緑道は、1878 (明治11)年に農業用水路として造られた北小岩川の水路跡です。市街化が進むにつれて生活排水が流れる排水路となり、下水道の整備でその役割を終えた後、1990 (平成2)年に親水緑道として生まれ変わりました。弥生式土器のマンホール蓋は、かつての川の記憶が残る場所で、遠い昔の人々の生活を今に伝えています。一見普通に見える住宅地にも、知られざる歴史が息づいています。ぜひ皆さんも、足元の蓋からそのまちの歴史を探してみてください。

写真:上小岩遺跡発掘調査記念碑と弥生式土器のデザインマンホール蓋

上小岩遺跡発掘調査記念碑と弥生式土器のデザインマンホール蓋(東京都江戸川区)。

竪穴住居跡が出土した上小岩小学校はこの近くにある。上小岩親水緑道沿いに複数設置されている蓋は、同じデザインで江戸川区章入りと都章入りの2種類

傭兵鉄子(ようへい・てつこ)

マンホール蓋&腐食金属愛好家。愛好家主催のイベント『マンホールナイト』実行委員。学生時代「自分の街をプロデュースする」という課題がきっかけで市町村毎に違う絵柄の鉄蓋に気付き、以来その魅力にハマる。アニメに登場する蓋も研究観察対象。

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