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第1章 維持管理の基礎

事前に十分検討を重ねて設計した排水処理施設であっても、日頃の維持管理を十分に行わなければ排水処理施設本来の性能が発揮されず、良好な排水の水質を維持することはできません。常に良好な状態を保つためには適切な維持管理とそれを支える体制の整備が必要です。
ここでは、維持管理の基礎となる、日常点検、定期点検及び体制の整備について、注意すべき点を詳しく述べます。

1.日常点検

排水処理施設の日常点検は、外観上の点検が主体となります。日常点検が完全に行われていれば、機器類の致命的な故障は避けることができます。また、施設の経時的変化を把握することができるので、定期点検の時期を決定する資料も得られます。

(1)点検内容

日常点検では、排水処理施設の運転状況及び処理に影響を与える要素や、処理の進行状態を点検します。併せて、排水処理施設に付属している機器類の点検も行います。
具体的には次のような項目があります。

  1. 排水処理施設の電源が入っているかの確認
  2. その日の作業内容によって変動する、原水水質および水量の把握
  3. 作業終了時、排水処理施設の電源を切る適切なタイミングの確認
  4. 計器の指示値の確認
  5. 処理過程における排水の色及び処理水の色の確認
  6. 凝集フロックの形成状態の確認
  7. 処理水質のチェック(特に、排水処理施設の稼働初期の処理水質は、通常と異なることが多いので原水槽に戻す等の対策が必要です)。
  8. 電極の洗浄と校正
  9. 処理薬品の補充がされているかの確認
  10. 槽・配管・床への液漏れはないかの確認
  11. 撹拌羽根の脱落、Vベルトの破損がないかの確認
  12. 脱水ろ布の破れはないかの確認

(2)処理水質のチェック

処理水質のチェックには、公定法以外に試験紙、検知管などによる簡易測定を適切に利用して下さい。しかし、簡易測定はあくまでも簡易測定ですので、公定法による測定結果と対比して使用しなければなりません。
また、測定に使用する薬品によっては、特定の保管方法や有効期限があるので、十分注意して下さい。なお、測定結果は記録して下さい。(特定施設の設置者については、測定と測定結果の記録・保存が義務付けられています。)

(3)運転日報の作成

日常点検は、運転日報を作成し、これに基づいて行うのが合理的です。日報や点検記録を付けることで、うっかりしたミスを無くすことができます。点検用紙の記載事項は、事業場の施設の特徴等を考慮して作成する必要があります。
点検記録用紙を作成する場合の一般的な注意事項は、次のとおりです。

  1. 法律によって記載が義務付けられている項目は必ず入れて下さい。
  2. 点検・保守すべき項目をチェックできる様式にして下さい。
  3. 記入しやすい様式にして下さい。
  4. 集計しやすい様式にして下さい。
  5. 記載が煩雑でない様式にして下さい。

なお、運転日報から排水処理施設の運転状況の良否を判断できる項目を選んで月報、年報等を作成すると、施設の経時的変化がさらによく把握できます。

2.定期点検

日常点検だけでは、施設や機器類の内部の状態まで十分に把握することはできません。そこで、比較的長い期間毎に精密な点検を行い、部品の交換や故障個所の修理を行う必要があります。また、定期点検により機器類の老朽度を知ることは、排水処理施設を安定して運転する上で重要なことです。
定期点検は、日常点検では行うことのできない面を補うものです。内容としては、各槽の点検(腐食、液漏れ、塗装の剥がれ等)、グリース交換、モーターの保守点検等の日常点検に準じて行える事項から、脱水装置のオーバーホール、pH計・ORP計の回路点検、制御盤の電気回路点検といった専門業者に委託すべき事項まで、広範囲に及びます。
定期点検を行うにあたっては、点検の期間、頻度ごとに点検項目を分類し、月間及び年間をとおしてのスケジュールを作成して下さい。装置を停止させたり、機器類を取り外して点検する場合には、生産部門とよく調整し、未処理の排水が排出されることがないように配慮する必要があります。
また、設置メーカー等の専門業者に定期点検を依頼する場合には、必ず水質管理責任者や排水処理施設の担当者が立ち会うようにして下さい。
定期点検の場合も、日付や点検項目を記録して下さい。

3.運転マニュアルの作成

排水処理施設は、決められた手順に従い決められたとおりに運転するのが基本です。技術説明書などを熟読して、運転方法を十分に理解しておく必要があります。排水処理施設の技術説明書を基に、誰でも操作できるように運転マニュアルを作成して下さい。慣れによる単純な誤操作を防止するためにも、運転マニュアルによる的確な操作が必要です。

4.管理体制

企業の大小にかかわらず管理体制づくりは必要です。排水処理施設の維持管理が十分に行われていても、作業場から処理困難な物質を排出されては、処理不良を起こしてしまいます。系統分離や濃厚廃液の保管場所などについて、排水処理を考慮した作業方法に関する教育を従業員に徹底教育して下さい。また、もしも事故があった場合の対処方法を確立しておく必要もあります。

(1)水質管理責任者の選任

条例に定められている水質管理責任者を選任し、排水処理施設を管理して下さい。水質管理責任者は、講習会などにも積極的に参加し、常に公害防止に対する心構えを養い、新しい知識を習得する必要があります。また、水質管理責任者が不在な場合であっても、排水処理施設を運転管理し下水排除基準を守る必要があります。そのため、水質管理責任者の代理が置けるよう、日頃からの従業員教育が必要です。

(2)事故対策の確立

十分に維持管理を行っていても、事故が発生する場合があります。作業場内での事故、排水処理薬品の盗難・流出、排水処理施設の故障などです。そこで、発見者・関係者・関係機関などとの連絡体制を整備し、事故時・緊急時の対応を明確にして下さい。
発見者は水質管理責任者であるとは限らないため、常日頃からの公害防止に対する従業員教育は必要です。

(3)排水処理施設の周囲の整理

日常の運転管理業務を円滑に行うとともに、作業の安全性を確保するため、排水処理施設の周囲を整理して下さい。
排水処理に必要な薬品や発生した汚泥を放置しておくと、思わぬ事故の発生を招くことがあるので注意が必要です。特に露天への放置は種々の問題を発生させるため、絶対に行わないで下さい。

(4)作業場清掃・施設のオーバーホール時の対応

通常とは違った排水が出る可能性がある作業及び作業場清掃を行う場合、排水処理施設及び薬品槽等の清掃、施設のオーバーホールを行う場合には、下水道への排水には十分に注意する必要があります。
作業工程の改善・水質改善が不可能で下水排除基準を守れない場合には、排水を止める必要があります。 具体的な排水処理施設を停止させる場合の例としては、以下のような場合があります。

  • 事故・故障があって排水処理施設(の一部)を交換・修理する場合
  • オーバーホールで施設を止めるが、排水がある場合

(5)社内組織の整備

社内組織の整備の仕方には、二つの方法が考えられます。一つは水質管理責任者を生産ラインに配置することです。もう一つは、環境課などのスタッフ部門を独立させることです。また、社内規程などによって、水質管理責任者の職務と権限を明らかにして下さい。さらに、企業内における公害防止組織の位置付けを明確にしておく必要があります。

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